第1回 Voice(前編)
初めて自分の声を聞いたときの落胆を今でも覚えています。
早口で甲高くてノドから出てる聞き苦しい声。
なんかの機会に録音されてた自分の声を聞いてみたのだけどこれはヒドイ。
こんな声で人前で話してたのかと思うと眩暈がしました。
”声優さんになるのが夢”だった小学生のころの話です。
* * *
普通にテレビアニメが好きな子供でした。
そして何故か、何の疑いもなく「絵が喋ってる」と思っていました。
宇宙に旅立つ若者たちも、妖艶な美女も、Tシャツに住んでるカエルも、妖怪も・・・すべて。
ドキュメンタリーとフィクションの区別もつかない年頃だったからねぇ。
ドラマやアニメで人物や動物が怪我したり死んだりするとひどく落ち込むので大変でした。
とっくに現実を分かってる子供も多かったと思われる中で、私はあまりにも世間知らずだったのでしょう。
(こんな子供にホラー映画なんか見せるヤツは鬼だと思うぞ)
ある日のこと。
友達から借りたアニメの本の中で、登場人物のページそれぞれに”地味ぃな人物の写真”が載っていたのです。
「誰なんだろ?」しばらく考えてみました。
モデルになった人にしては顔が違いすぎると思いました。
登場人物は爽やかな青年だったのに、写真の人は普通のおじさんだったし(失礼)。
変だな。ヘンだなぁ・・・。
そして、とうとう知ってしまったのです。
”声優”という仕事があるってこと。
その仕事をする人こそ、絵を喋らせていた張本人だということを。
絵が喋るという発想に何の疑問を抱かなかった幼心に、声優という存在は衝撃が大きすぎました。
思いもかけない存在というより、存在すら思い浮かばなかったものだったから。
かっこいい青年の声をすっげーおじさんが演じてるのが分かったりして更にショック。
一番ショックだったのは、男の子の声を大人の女性が演じてたこと。
なんか詐欺にでも遭った気分。
「なんだよー、全部普通の大人が喋ってたんじゃん!」
* * *
声優の存在を知ることは、現実を知る絶好の機会だったのかもしれません。
世の中はツクリモノで溢れている。
ウソとホントが入り混じっている。
だけど、それが面白いことだったりして。
ツクリモノを創るなんて楽しそうだなぁ。
・・・そんなことを考えてるうちに声優になりたいと思うようになりました。
ツクリモノ創作サイドで初めて知った仕事だったからね。
そして自分の声を知りたいと思うようになったのです。
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最初っから音楽とは無関係っぽい話になってしまいました。
でも厳密に言うと無関係ではありませんのよ。
その続きは・・・。
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