第4回 Next Gate



春の陽気あふれる4月半ばの土曜日のこと。(何年前の話かはナイショ)

そんなこんなで総合大学バンドサークルの見学に連れて行ってもらうことになりました。
学生になって初めての経験です。

その大学は寮から電車で10分くらいのところに有りました。(自分の学校行くより遙かに近い!危険や)
駅を出て正門までの通りを歩いていると学生の多さやにぎやかさに圧倒されます。
 「広ーい」 「人多いー」 「喫茶店いっぱいー」っていうのが正直な感想。これじゃタダのおのぼりさんだねぇ。
熊が出そうな山奥の小さな単科大学に通う女子大生にとって町の中にある総合大学はカルチャーショックでした。
いいなぁ大学生♪って感じ。


サークルの部屋に初めて足を踏み入れる・・・ちょっと緊張が走ります。
(本当は部室と言いたいところだけど、正確には学部談話室を勝手に占領しているだけと後で分かった)

部屋にはたくさんの学生が居ました。
新入部員争奪戦の時期だったらしく普段来ない人もたくさん来てたらしいです。
(ポロシャツ襟立てゴールドネックレス日焼け系がたくさん居てびっくりしたけどテニスサークルの男性陣だった)
活気溢れる雰囲気にちょっと戸惑いを隠せませんでした。

田舎娘たち相手にガイダンスをしてくれた先輩は素朴で物静かな理系タイプ。
サークルの概要やスケジュールをゆっくり丁寧に教えてくれました。
結構長い時間話すうちに今まで聴いてきた音楽や好きな音楽の話も溢れるように出てきたような気がします。

 「なんの楽器やってみたい?」 
そんな話が盛り上がったころにはすっかり新入部員の気持ちになっていたので、ガイダンスは大成功だったと言ってよいでしょう。
その後、他の先輩方や入部済みの同級生たち大勢といろんな話をして夕方まで過ごしました。とても充実した1日でした。
好きなことの話をしてずっと会話が続くって本当に楽しいことなんだなと思いました。


こうして総勢70名ほどの大所帯のバンドサークルに入っちまったわけなのです。
そういえば演劇部に入るはずやったのに。


 * * *


突然ですが入部を決めたときからキーボードを弾いてみたいと思っていました。
今まで声を磨こうとしていたのは歌うためでなく演劇を目指していたからで、音楽をやるなら断然キーボードと考えていました。
何を隠そう、当時の私は小室哲哉氏の大ファンだったのです。
長いこと弾き語り用ピアノを弾いていて『彼みたいにいろんな音が出せたら楽しいのに』って心のどこかで思っていたのかも知れません。


6月に”フレッシュマン・コンサート”というのがあって、新入生の分際でいきなり出演できることが決まっていました。
となると楽器だよな。楽器はどうするのだ!?
心温かいスポンサーのご好意で愛器”Roland D-10”を手にすることができた私は(ありがとう母)、
デビューコンサートに向けて同級生たちとバンドを組み練習に励むようになりました。
毎日どれくらい楽器さわってたかしら。眠くなったらベッドに持ち込んででも弾き続けそうな勢いでした。
何が楽しいって、音がいっぱいある&作れる!!どんな曲でも弾ける気がしてくるほど。(それは錯覚)

男女7人で組んだ新入生バンドは女の子3人がキーボーディストってことで、それぞれがヴォーカルも兼任することになりました。
記念すべき初ステージで演奏したのはレベッカ、白井貴子、アン・ルイス。なんか時代を感じるぞ。
ちなみに私のステージデビュー曲はキーボードではなくヴォーカルでした。あくまでも副職のつもり。
白井貴子の ”Next Gate” とレベッカの ”Lonely Butterfly” を歌いました。
レベッカの曲は私には微妙にKeyが高くてとても苦労したのを覚えています。ノド痛かったわ。
キーボードはへなちょこな演奏ながらコンサートとしては成功だったと思います。ステージに立つ楽しみも味わえたし。


初ステージの後はキーボーディストとしていろんなバンドに参加させてもらえるようになりました。
うちのサークルはコピーバンドがメインだったので(オリジナル曲を作っている固定バンドはほとんど居なかった)、
たくさんのメンバーと共演したり他の出演バンドの音を聴いているうちにリアルタイムでは知らなかった音楽とたくさん出逢うことができました。
何年分もの名曲の数々を短期間にまとめて聴いてるうちに大好きな音楽が増えていくのが面白かったなぁ。

コーラスや余興で歌うことは時々ありましたが、しばらくの間キーボーディストとして充実した音楽生活を送っていました。
このときのテクニカルアドヴァイザーが2年先輩だったJ23で、彼とのつきあいは結構長かったりします。


 * * *


ある日ささやかな転機が訪れます。

 「BANGLES 歌ってみない?」 2年生のときの夏休み前、仲良しだったギタリストが声をかけてきました。

 「キーボードじゃなくて歌なの?」 と私。

 「うん。歌う人見つからなくってさー」 要するに人手不足ってことですね。専業シンガー少ないサークルだもんねぇ。

早速 BANGLES 聴いてみました。実はバンド名しか知らなかったのです。
聴いてみて思いました。良い・・・滅茶苦茶良い!メンバー美人揃いの上に曲も綺麗・可愛い・カッコイイ!!

 「はい歌います。歌いましょう。いや歌わせて」(←最後は心の声ですな) 二つ返事でフルヴォーカルへの挑戦をすることにしました。 


夏休みの間中ヴォーカルの自主トレです。
10kg以上あるキーボード抱えて肩にミミズ腫れを作りつつ新幹線に乗り込んで里帰りしてた前年夏休みが懐かしく思えます。
あぁ、そっか。ヴォーカルって楽器持たなくていいから身軽なんだなぁ・・・ふとそんなことを考えてしまいました。

何かにつけて楽器と歌の違いを感じることが多かったです。
キーボードはヘッドフォンをつけて練習できるので騒音にはならないけどヴォーカルはどうすればいいんだろ。
歌詞覚えるくらいなら鼻歌で良くても、歌いまわしの練習はそういうわけにはイカンよなぁ。
幸い実家では多少大声で歌っても近所迷惑にならずに済みそうだったので心ゆくまで大声で歌って練習しましたけど。
(スマン家族。迷惑なら迷惑と言ってくれて良かったんだよ)

ところで演奏曲6曲とも英語の歌詞だけど大丈夫なんかしら。私の奥ゆかしい脳細胞で全曲覚えることができるんだろうか。
英語の歌詞うろ覚え(通称:ハナモゲラ)のまま歌おうとすると、目が激しく泳ぐクセ(バタフライ並み)があるのにも何となく気が付いていたし。
全曲歌詞覚えてカンニングせずにステージで歌うところまで果たしてたどり着けるのか・・・謎だわ。
楽器演奏者としては楽曲構成を覚える以外で記憶力絡みの苦労したことなかったんだよねぇ。
ヴォーカルって、もしかして結構大変!?


夏休みが終わると早速スタジオ練習が始まりました。
おっとりしたメンバーが集まったバンドだったので練習も朗らかなものでした。
シャイなくせに狙いボケ担当のギタリスト&ベーシストが2人揃って乗り気だったことも練習が盛り上がる要因だったかもしれません。

本当に気の合う仲間たちと、メンバーみんなが好きな曲を演奏する時間って心の底から楽しいんだよねぇ。
そんな音に包まれながら歌えるのが何とも心地良くて、練習日が来るのが待ち遠しかったです。


そんなこんなでコンサート当日がやって参りました。

ただ一生懸命歌ってロクなMCも出来ないまま「あぁ楽しかった!」のお祭り気分で終わったつもりだったけど、
周囲からは予想以上にあたたかい評価をしてもらえていたことが打ち上げのときに分かりました。
普段は辛口の先輩や何より同じバンドのメンバーから「歌良かったよ」って言ってもらえて本気で嬉しかったです。

 『キーボードを弾いてるときと同じくらい、歌ってる間も楽しかったなぁ・・・』

バンドの中で歌うってことに、ちょっと興味が湧いてきました。





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