第3回 Changes



夢破れたからこそ新たな夢が拓けるのだなぁ・・・こんな風に思うことがあります。



子供のころに自分の”声”を意識するようになってから話は飛びに飛びまくって、
とうとう映像や舞台の演技者を目指すようになってしまったわけですが。

結果から言うと、その夢を追い続けることはできませんでした。

早い話が”大学受験第一志望不合格”の烙印を押されちゃったってことですね。
結構良い手ごたえを感じていたつもりだったので(根拠なし)割と真剣に落ち込みました。
冷静に考えると競争率はかなり高かったので落ちて当然だったと思います。
「あなたの成績では筆記試験すら受からんと思う」と進路指導の先生に断言されてたけど、
映画科・演劇科とも筆記試験だけは合格したっていうのが数少ない救いだったでしょうか。
受験は合格してこそ意味がある!っちゅー意味では実技で落ちてりゃ何の自慢にもなりませんね。

でもね。
受験そのものがとっても楽しかったんです。
特に演劇科の実技試験は丸2日間に渡って10人くらいのグループを組んで行う大掛かりなものでした。
いきなりテーマをもらっての即興演技やシェイクスピアの台本読み、リズムダンスや動物のパントマイムなどなど。
大きなステージでひとりずつ歌ったりもして、受験してることを忘れそうなくらい楽しんでしまいました。
演劇部も放送部も経験なかった私には新鮮なことばかり。
俳優の久米明さんが最終試験の面接官の中にいらっしゃったことも感動的でした。
声優に憧れて演技者を志した私にとって、久米明さんは”クラッシャージョーのお父さん”という存在。
テレビのナレーションなどで声をお聴きするたびに、すぐ近くでお会いできたことを幸せに想い出します。

同じ夢を持った若者たちって、一緒に何かに挑戦していくうちに結束が固くなるんですね。
2日間の試験が終わるころにはグループのみんな離れがたいほど仲良くなっていました。
学校近くの駅までの道のりをどうでもいい話をしながら無駄にゆっくり歩き、
「入学式で会おうね!」って言いながら半泣きで別れました。
結局グループからの合格者はひとりだけでした。
再びみんなで会うことはできなかったけど、今想い出しても心温まる記憶です。


一番行きたかった学校に落ちたことは運命だったと思っています。
合格しなかったらその道に進むべきではないのだと自分の中で納得していました。
”縁が無かった”ってことなのだと。
家族との約束もあったけど、浪人するとか劇団に入るとか専門学校に行くとかはまったく考えませんでした。
つかみどころのない夢に挑戦させてもらえたことで満足したのだと思います。



 * * *



そんなこんなで、私は故郷を離れたとある女子大に行くことにしました。

文学部だけの小さな小さな学校で、女の子ばかり140人も居る寮に入って地味な学生になるつもりでした。
門限も結構厳しかったし(9時厳守。破ったら翌日から1週間も門限7時のペナルティ有り)、
寮と学校の往復に多少オマケがつくくらいの学生生活になると思っていました。

演劇部があったらのぞいてみようと思ってたのだけど、休部中というか存在しないに等しい状態でした。
小さな女子大ってことで部活は活発ではなかったようです。
ますます寮と学校の往復になりそうだなぁ。

・・・大丈夫か?仮にも花の女子大生!
アナタお勉強ばっかりしていられる体質じゃないでしょ?



運命って不思議なもので、出会うべき時に出会う人や物・事柄があったりするのね。

入学して間もないある日、寮で同室になった友人からお誘いがありました。
 「バンドに入ろうと思うんだけど、先輩に話聞きに行くのに今夜つきあって!」

その友人はバンドの中でサックスを吹きたかったようです。
吹奏楽とかオーケストラじゃなくって、POPSやROCKのバンドね。
彼女はサックスまったくの初心者だったけど、情熱は本物だと直感しました。
これは面白そうと思ったので行ってみることにしました。

行った先は同じ寮の中、3年生の先輩の部屋。
1・2年生は2人部屋なんだけど、3・4年生は1人部屋なのでゆったりした感じ。
バンドに興味を持った子が他にも居て、4人で先輩の話を聴くことになりました。

先輩はヴォーカリスト。小柄で色白でちょっと猫目の可愛らしい女性でした。
おっとりした敬語で年下の私たちに話しかけてくれる雰囲気がとっても素敵。
バンドやりたいっていう以前に、すっかり先輩のファンになってしまいました。
話が予想以上に盛り上り、気が付くと深夜になっていて驚きました。
初対面なのに4~5時間は話していたと思います。

先輩が入っているのは近くの総合大学のバンドサークルで、部員7~80人くらいの大所帯ってことでした。
定期ライヴ有り・合宿有り・大宴会有り(コンパなんてお洒落なものではナイ)・・・あらら、なんだか楽しそう♪
しかも寮から自分の学校に行くより近かったりします。
これは、遊びに行ってみるしかないってことでは!?



 ”おいおい”
 ”映画や舞台の演技の勉強をしようと思ってたくらいなら、何故その大学の演劇部に入ろうとか思わないわけ?”
そうだよねぇ。これまでの流れから考えるとそう思う方もいらっしゃいますよね。

何でか分からないけど、大学の演劇部の雰囲気は私が求めていたものではなかった気がします。
ちょっとアングラと言うか外部から遠い空気とでも言いましょうか。
外に飛び出して行きたかった私には違う世界だと感じてしまいました。

そもそも演技を勉強しようと思ったのは、自分の好きなこと全部に関わる大雑把なきっかけが欲しかったことに始まります。
話す・歌う・音楽・美術・写真・・・映像や舞台なら全部融合できるやん!と本気で欲張りなこと考えてたんですもの。
 
 話す・歌う・音楽・写真 = ライヴ
 美術 = メイク&衣装コーディネート

なーんだ、バンドってやりたいこと全部クリアしてるじゃないですか。(こじつけっぽい?)
新しい世界かもしれないけど、今まで目指してたものとあまり変わらない気がしたのです。



総合大学のバンドサークルって、どんな人たちが居て・どんな場所で・どんなことをしてるんだろ。

実際の雰囲気を知るためには、まずは遊びに行ってみなくっちゃ、ね★





第4回へ