
久々です。気がつけばこのコーナー、最後に更新してから既に3年以上の歳月が経過している….。時の経つのは早い!と最近よく感じるのは俺が歳をくったせいではきっとないはずだ(よな?)。
あまりにもほったらかし過ぎって訳でかなり久々にペンを取ってみた(実際はキーボードだけど)。
ほったらかしの原因の一つに原稿作成に対して「構えちゃう」傾向があるようで、
さらにその原因を考えると毎回の話が長くなっているからって事がキーのようなんだな。
つまりは自分のやり方のせいなわけ。
そこで今回からは1回毎の項目を絞ってさらっと進みたいと思う。
と言いながら既に前置きが長かったりもする。
で、今回のお題:「録音時、ミックスダウン時の音造りについて(Vocal編)」って事で、
レコーディング(以下Rec)時とその後のミックスダウン時の音造り、その中でも特に難しいヴォーカルの音造りについて述べてみたい。
ヴォーカルをうまく音造りするためにはズバリ、イコライザ(以下EQ)とコンプレッサーをいかに上手につかってやるかが最大のポイントだ!
というのもこのコラムの第1回で述べた通りヴォーカルはナマモノで、それ故にダイナミックレンジが非常に広い。
え~、このコラムは宅録初心者やミュージシャンで無い方も対象としているので、「ダイナミックレンジとはなんぞや?」「馬鹿でかい電子レンジのこと?」なんて思ったような人たちのためにもここで説明しておきましょう。
ダイナミックレンジとは、そもそもは機器が利用可能な分解能の実力値をあらわしたもので、この場合は音源機器の最小値と最大値の比率、つまり音域の広さ加減をさすことになる。
よく[dB]という単位をみかけたり耳にする人も多いと思うがこの[dB](デシベルと読む)がダイナミックレンジの一般的な単位となる。
ここで音とデシベルについてのうんちくにも少し触れておこう。人間が耳で聞き分けることが出来る音圧レベルの範囲は、一般的に20[Hz]~20[kHz]の周波数範囲で0[dB]~130[dB]であるといわれており、音圧レベルが10[dB]大きくなると2倍に、20[dB]大きくなると4倍の強さに感じると言う。
さて、そのダイナミックレンジの広い「歌」をそのままそうでない他の音源、例えばギターやベースなどとあわせてしまうとポッカリ浮いたように聞こえてしまうわけだ。そこをどう処理するかってのが今回のお題。
一般的な方法を簡単に説明するとヴォーカル音源に対してコンプやリミッターで不必要な範囲をカットした後、EQで欲しい周波数特性が出るように上手に処理してあげると、CDの音源のような楽器の音に馴染むような音になり全体的に違和感の無い作品を創り上げることが出来る。
具体的な処理方法を説明する前に、まずはコンプとリミッターについて説明しよう。
コンプレッサーもリミッターも機能としては拾った音源を圧縮したりカットしたりして、出力後の音の粒をそろえる事が出来るエフェクターだ。
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どちらも構造的にはほとんど同じ仕組みなので、実は世の中の大体のコンプレッサーはリミッターの代用品にもなりうる。
コンプレッサーとリミッターの差をあえて表記すると、レシオをかなり高めに設定して、入力信号(音)の最大レベルを、設定したあるレベル以下にカットしたように抑え込むものをリミッターと呼んでいる。
たとえば一般的な機器ではレシオを10:1よりも大きく設定されたものがリミッターみたいに扱われていたりもする。
ただしリミッターを多用すると、音質変化に影響してくるので、個人的にはアタック感や音圧感を出す目的以外では使っていない。
楽器プレイヤーの場合、例えばギタリストの場合だとカッティングプレイやクリーンなアルペジオパターンを演奏する場合に使用すると効果がわかりやすい。
またベーシストの場合だと音の粒をそろえる目的以外にスレッショルドを低く設定してドライブ感を出すプレイヤーも多くいる(俺がよくJ23に要求するスタイルだ)。
しかしヴォーカル処理をするには楽器プレイヤーが使う比較的コンパクトでシンプルなものだと少し物足りない。
レンジの範囲が広く、各レベルが微妙にコントロールできるものが欲しい。
で、今回は俺がヴォーカル処理をするときに使っている機器で、コンプレッサー【Alesis-3630compressor】(←こいつは名機だ!)とEQ【BOSS-GE-131】(←こいつも周波数レンジが広く重宝してる!)、そして【Roland
VS840-ex】の内臓エフェクトを使って、実際にレコーディング処理でやってる具体的な方法(勿論TRIUNITYでもやってるパターン)を幾つか説明しよう。
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まずRec時は、出来る限り生声を録り入れてあげたいので、エフェクト処理としては入力の音が割れない程度にソフトに設定してあげる事がポイントだ!
EQやエンハンサーなどのエフェクターはミックスダウンの時にかけても対応可能なので、Rec時は出来る限り使わない事をお勧めしたい。
ヴォーカリストにもよるが、例えば少し声質をコントロールしたい程度であれば、EQ設定は5kHz付近の子音成分を避けるようにし、50KHz以下をカットする程度に軽目に設定したい。
ちなみにTRIUNITYのmic嬢の声には基本的に歌録時のEQは全く使用していない。
マイクケーブルやマイクスタンド、マイクの吹きノイズや床の振動ノイズがどうしても気になる場合は50Hz以下を少しカットすれば大体OK。
しかし、その辺はEQを使わなくても物理的な工夫で対応ができるはずなのでRec時のコンプ以外のエフェクト処理はできればやりたくないところだ。
Rec時のコンプレッサーの設定は基本的にはレシオは小さ目に、アタックを長めに、逆にリリースを短めに設定して、曲やヴォーカリストの癖にあわせた上で出来る限りナチュラルなスレッショルドレベルの設定で録音する事が大事だ。
ここで、TRIUNITYの録音時の設定を紹介すると以下のようになる。
<コンプ>
●レシオ→4:1
●アタックタイム → 20~100[msec]
●リリースタイム → 50~100[msec]
●スレッショルドレベル → -10~-15[dB]

スレッショルドレベルは、ヴォーカリストの癖にも影響するのでTRIUNITYではmic嬢の立ち位置とその日のコンディションをうかがいながらリハーサルと本番発声にあわせて都度調整をかけていくようにしている。
ささやくように歌う部分に対しては声がつぶれてしまわないようにセッティングし、反対側ではサビなど声に力が入る部分で音割れが生じない程度にかけている。
あまりにソフトなセッティングを意識しすぎてスレッショルドを高く設定してしまうと、入力レベルが機器のピーク値をオーバーして音割れが発生するし、反対にスレッショルドを低くしすぎると、声に力が入る部分でガクッと声が遠くに埋もれてしまうように聞こえたりする。
つまりこのスレッショルドをいかにうまく設定できるかが歌録時のエフェクターセッティングのポイントとなってくる。
「Myosotis(ミオソティス)~君に贈る花~」ではこの設定に結構苦労した。
次にRec後、つまりミックスダウン時の処理について。
ミックスダウンの際はどのようなバックにどんな感じで歌を乗せるかによってアレンジのやり方が変わってくるが、ここではまたTRIUNITYのミックスダウンの一例をご紹介ししよう。
処理に使うエフェクターは主に、EQ、コンプレッサー、エンハンサー、ディジタルディレイ、リバーブって感じ。
ディレイは短めに設定してとエンハンサーと組み合わせて使う。
エンハンサーで強調した部分を他の部分と違和感なくすためにショートディレイで補うって感じでセッティングするのがポイントだ。
リバーブは全体的に隠し味程度にしたい。決してカラオケみたいにならないように!
TRIUNITYのミックスダウン時のヴォーカル処理設定を紹介すると以下のようになる。
尚、ディレイは【BOSS-DD-3】、エンハンサー、リバーブはRoland-VS840-EXの内臓エフェクトを利用した一例である。
<EQ>
大体10kHz以上を軽く持ち上げて、1kHzあたりを気持ち抑える。少し上げる。

<コンプ>
●レシオ → 4:1~10:1くらい。アコースティックアレンジだとやや大きめに設定する。
●アタックタイム → 20~100[msec]
●リリースタイム → 80~120[msec]
●スレッショルドレベル → -10~-20[dB]

<ディレイ>
●DelayTime →(50~100[msec]程度)
●Level → 10~30
●FeedBack → 30~40

<エンハンサー>
●Sens → 40~50
●Frequency → 3~10[k]
●MixLevel → 60~70

<リバーブ>
●ReverbTime → 1.2~4.0[sec]
●PreDelayTime → 20~50[msec]
●Density → 3~5
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とまぁ、こんな感じでヴォーカルの音造りについてざっと述べてみたのだが、どれも教科書のようなものではなく、セッティングは実戦で色んなパターンを試してみて自分の機材の癖やヴォーカリストとの相性をみつけていくことが一番大事だ。習うより慣れろ、Try&Errorだ!
しかしやっぱり今回もちょっと長くなってしまった気がする。
やれやれ。
次回からは「楽器の音造りについて」みたいな感じで進めてみようと思う(と言いながら勿論予期無く変更する可能性はある)。
- 第4回 END (2006.05.25) -
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