第1回:歌の録音について
(その1)
まず記念すべき第1回は「歌録」について。
なぜこれを最初かって言うと、レコーディングで一番神経を使い、かつエンジニアのテクニックがモロに現れてくるのがこの「歌録」だといえるからだ!
こいつは俺の経験からもはっきりと断言できる。
楽器の録音の場合は、例えば演奏者が病気で風邪ををひいてて熱があって座薬を入れてても根性があれば可能だけど、ヴォーカルの場合はそうはいかない。
歌はほんのちょっとの体調不良なんかでもモロにサウンドに現れてしまうからだ。(実際は楽器も精神的なものは音に現れてくるんで大丈夫とは言えないんだけどね)
実は俺が在籍しているROCKユニット・ONE-WAY-DRIVE!の1st.アルバム【ACCELERATION】の歌録ではこの事に随分と気付かされた経験が有る。
一度ヴォーカリストのMINATOと晩酌を終えた直後にスケジュールの都合で歌録を無理強いしようとしたことがあったんだが、その時彼に「やるなら食わなかった!飲まなかった!」と言われてきっぱり無理だと断られたことが有る。
まぁ、当然だね(爆)。
っていうか、むしろヴォーカリストはそれくらいでなくてはなりません。
腹が一杯では声に力が入らないわけだし、ベストな発声は出来ないし、まず第一に苦しい!!
TRIUNITYのMICHIKO姐も当然レコーディングの前にはこんな事に気を使っているわけだ。
彼女は歌を歌う直前には決して食事をとらない!
ただし、微妙なアルコール(適量の範囲でね)はヴォーカリストの気分を落ち着かせたり、ノリや雰囲気を出すのに効果が現れる事が良くある!
彼女も【WEDNESDAY WIND】の歌録の時には軽くバーボンのお湯割を引っかけていました。
が、長い活動停止期間を乗り越え、ようやく水面下で微妙に動き出したバンド・Y.J.-PROJECTのヴォーカリスト・HAYURU氏は異常な酒好きで、これが裏目に出るタイプであった.....(涙)。
別の観点からも「歌録」が難しいといえる事がいくつも有る。
レコーディングって作業はたったちょっとのわずかなプレイにしても意外と時間がかかるもんだ。
いつもなら普通になにげに弾けてる(歌えてる)フレーズ、得意なフレーズがいざ録音!って時になってマイクの前にスタンバるとなかなかうまく行かない事がある。
で、これが楽器の場合なら時間をかけても努力と根気と根性(とほんの少しの圧力)でなんとかなるもんだが、歌の場合はそうはいかない(事が多い、力で乗りきる場合も有るけれど.....)。
っちゅーのが、度重なる録り直しで、長時間歌を歌わせると声質に悪い影響が現れて来る。
最悪の場合はどんどんひどくなって、発声可能な音域が狭くなり、歌う事自体が不可能になってしまう事も有るわけだ。
だから普通、プロのレコーディングなんかでは1度に長時間の録音をやるのではなく、時間(日にち)を充分にかけて何度も何度もとりなおしたりするわけ。
ただ我々のように仕事を別に持ってるインディーズバンドなんかではスケジュールもタイトだったりして時間的制約からそうはいかないのが現実なんだなぁ。
だからなおさら歌の録音はプレイヤーもエンジニアも充分な準備と知識をフルに活かして効率よくやらなければならない事になる。
そのため事前にヴォーカリストが録音する歌を自分のものにしておく事なんかは実は当たり前なわけです!
ただそうはいってもそのヴォーカリストの実力をレコーディングの際に最大限引き出してやれるかどうかってのはエンジニア(プロデューサー)の腕にかかっている。
例えばマイクの位置、ヴォーカリストの立ち位置やスタジオの環境造りなんかも含めて微妙な雰囲気が結構大事なんです。
ここで、録音の時にヴォーカリストのノリを引き出してやる方法の一つ、「テンポラリーリヴァーブ」というテクニックを紹介しておこう。
テクニックといっても別に難しいものじゃなくて、ヴォーカリストに返してあげる音(声)に軽くリヴァーブ(エコー)をかけてやる方法で、こいつが歌のノリを引き出すってわけだ。
風呂での鼻歌やカラオケの状態を作ってやるのに近い感じかな(そんなにたっぷりとかけないけどね)。
こいつのポイントはオーバーダビング(多重録音)の時にだけ使ってミックスダウンの時には使わないのが基本で、だから「テンポラリー(仮)」なわけ。
これをやるにはMTR(多重録音器)にリヴァーブがかかった声は録音してはいけないわけで、そのためにはモニタリングしているチャンネルから音をエフェクター(リヴァーブ)のセンドに送って、そのリターンから2MIXのSTEREO出力で戻せばいい。
近年のハードディスクレコーダやディジタルMTRなんかには、内蔵エフェクト機能を持っているものはめずらしくなく(本当に便利になりました)、その場合はエフェクトをかける場所(センドとリターンの位置)を選べるのでそいつをモニターアウトに設定してやればOK。
ちょっと自分に酔いやすいヴォーカリスト・MINATO(ONE-WAY-DRIVE!)なんかの場合だと、この手の効果は抜群に効く(crash!)。
録音前に好きなミュージシャンの話をしたり、LIVEのPVなんかを見せるだけでも歌にノリをプラスする効果が得られるもんだ。
そう、つまり上手な歌録を行なうためには、ヴォーカリストに対してフィジカルな面とメンタルな面の両サイドのケアをしながらベストな状態にコントロールしてやる必要がある(と思う)!
ズバリ歌は生物で、歌録は非常に繊細なんです!!
勿論、だからといって甘やかすというわけでは有りません。歌の出来がOKレベルに到達するまでは絶対に妥協しては行けないわけで、そこを目標に向かって一緒に厳しく歩んで行くわけです。
って、ここまででも結構長くなってしまった.....。
あんまり初回から長いと飽きちゃいそうなんで第1回は「その1」としてこの辺で。
第2回ではマイクとアンプについてでも語ろうと思います。
- 第1回 END (2002.06.01) -
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